禺画像]
第 2 章 「養陽」は, 陽の気を貯える男性側からみたもの,
第 3 章 「養陰」は, 陰の気を蓄える女性側について論じている.
第 4 章 「和志」は, 男女の精神的結合をうながす技法について,
第 5 章 「臨御」 は "床入り" の技法, 即ち, 初夜における男女交接を微細に述べる.
第 6 章 「五常」 は, 儒教道徳の五常である仁, 義, 禮, 智, 信になぞらえて, 玉茎が現わす五種の状態を分析する.
第 7 章 「五徴」 (女の快を知るための五種の徴候) から
第 8 章 「五欲」 (外状の変化),
第 9 章 「十動」 (無意識のうちに現われる女性の性動作),
第 10 章 「四至」 (玉茎の怒張, 肥大, 堅硬, 発熱の四状態),
第 11 章 「九氣」 (女性性欲の九期の経過) までの 5 章は, 絶頂感に到達するまでの本質的な房中術に当てられている.
第 12 章 「九法」 と第 13 章 「卅法」 は, 図解で房中術の奥義たる体位と動作が示されていて, すべて動物のしぐさをとって名づけられている.
これは 「気功法」 などに通じるものがある. 「九法」 の一から順に "龍翻 (リュウハン)" "虎歩 (コホ)" "猿搏 (エンパク)" "蝉附 (センプ)" "亀騰" "鳳翔" "兎吮毫 (トインゴウ)" "魚接鱗" "鶴交頸 (カクコウケイ)" という.
以下に, 三の "猿搏" を引用してみる.
<女をして偃臥 (フ) せしめ, 男, 其の股を擔 (カツ) ぎ, 膝還 (マ) た胸を過ぎ, 尻と背と倶 (トモ) に挙ぐ. 乃ち玉茎を内 (イ) れて, 其の臭鼠を刺す. 女, 煩 (モダ) え動揺 (ウゴ) き, 精液雨の如し. 男, 深く之れを案 (ミチビ) けば, 極めて壮 (サカン) に且つ怒す. 女, 快なれば乃 (スナワ) ち止む. 百病, 自ら愈ゆ.>
この房中術はすべて 「百病を治す」 ための技法なのである.
受胎の理論と方法を記した第 21 「求子」 には次のような記述がある.
<素女曰く, 子を求むる法, 自ら常 (キマリ) あり. 體 (カラダ) を清め, 心を遠 (ムナシ) くし, 慮 (オモイ) を安 (ヤス) んじ, 其の衿袍 (キンホウ) を定め, 虚しきを垂れ斎戒し, 婦人の月経 (ツキノモノ) の後三日, 夜半の後, 鶏鳴 (ヨアケ) の前を以て, 嬉戯 (アソビタワム) れ, 女をして盛んに動ぜしめ, 乃ち往きて之れに従ふ. 其の道理 (コトワリ) に適ひ, 其の快楽 (タノシミ) を同 (トモ) にす. 身を郤 (シリゾ) けて施写 (イダ) すに, 遠 (フカ) く至りて麥歯 (バクシ) を過ぐること勿れ. 遠 (フカ) ければ則ち子門を過ぎて子戸に入らず. 若し道術 (サダメ) に依りて子を有 (モ) たば, 賢良 (カシコ) くして老寿 (ナガイキ) するなり.>
以上で, 凡その見当はつくだろうが, インドにも有名な 「カーマ・スートラ」 という "性典" があって, 「性の営み」 がほぼ古今東西同じであったことが解る.
ただ, 中国伝来の "房事" の指南書が 「性科学書」 の性格をもち, 健身防衰に適う 「養生」 の秘法として記述されていることは特筆すべき点であろう. 東洋医学を学ぶ上からも貴重な史料である.
如何でしたか? 『医心方』に限った事ではないが, 所謂 "古典" というものは, 奥深く, なかなかに味なものである事がお分りになりましたでしょうか?
最後に, 個人で, また, 独学で 『医心方』 と言う膨大な古典医学書を訳出した, 作家にして古典医学研究家, 槇佐知子さんについて紹介しておきたい. 彼女の大いなる志には, ただただ敬服せざるを得ないのである.
1933 年, 静岡県生まれ. 本名 杉山 多加子. 1952 年, 相良高校卒, 1953 年, 武蔵野美術大学通信制中退. 1974 年, 日本最古の医学全書 『医心方』 (丹波康頼) の本邦初訳に取り組む. 瀧井孝作に師事し, その推薦で 1976 〓 78 年 『心』 に小説を発表. その後児童読物執筆ののち, 1978 年, 『大同類聚方』 の本邦初訳に取り組み, 独学で現代語訳を続け, 1985 年 『全訳精解大同類聚方』 を刊行し, 1986 年に菊池寛賞, 1987 年エイボン功績賞を受賞. 1991 年から 1997 年まで筑波技術短期大学講師. 1993 年から 『医心方全訳精解』 全 30 巻を逐次刊行中. 日本医史学会会員.