チリ鉱山落盤事故の全員救出で思うこと
2010-10-15


昨日, チリの落盤事故で閉じ込められた 33 人が, 70 日振りに全員無事に救出された. 大変に喜ばしい事であり, 殆どの方が感動されたに違いない.

全員が生き残り, 救出された事自体が奇跡に近い, と思うのだが, 地下壕に閉じ込められ, 極限状態に置かれた 33 人の作業者たちは, どんな思いで 70 日間を様々なストレスに耐え抜いたのだろうか?

何れ, 詳細なレポートが為されるものと期待している.

然し, 仲間が全員救出されるまで見届けたいと, 最後に救出されたルイス・ウルスアさん (54) は, 70 日間の長期に亘り, 極限状態下の過酷なストレスに晒されている 32 人を統率しきったと言う.

彼がいなかったら, 果して, 33 人が全員無事に生環出来たか否か疑問でもある.

彼の見事なリーダーシップが, チリ国内のみならず, 海外でも, 既に, 高く評価されているようだ.

空気や水がある限り, 極限状態で最も大切なのは, 「心」 であり, 助かると言う 「希望」 がなくなると絶望感や恐怖感に陥り, 錯乱し, 生命力もなくなり死に至ってしまう, とは酸素ボンベなしで 8000 m 級の山々に挑む登山家である, 小西浩文氏の指摘する処である.

極限状態を集団で生き抜くには, 肉体的・精神的な弱者に対する思い遣りが何よりも重要で, 苦しんでいる相手の心を励まし, 癒すことが大切であると言う.

嫌な仕事は率先して自ら引き受け, 成果は部下に優先的に分け与える, と言う 「自己犠牲」 の姿勢を貫く事で, 彼は 32 人を見事統率し切ったらしい.

聞く所によると, 彼は, 経営学の神様と言われるピーター・ドラッカーの 『マネジメント』 の愛読者であったと言う.

彼の執った行動は, この 『マネジメント』 を読む事で身に付いた手法が多かった様だ.

何れにせよ, 今回の事故から得た多くの教訓は, 今後色々な危機管理場面において役立てる事が出来る筈だ.

奇跡の生環を可能にしたウルスアさんのリーダーシップを考える時, 思い出すのは, かつて本欄で紹介した, 須川 邦彦 著 『無人島に生きる 16 人』 (新潮文庫) である.

これは実話をもとに書かれた本であるが, 無人島に漂着した龍睡丸の 16 人の船員たちは, 船長が中心となって, 各自の役割分担をきちんと割り振り, 何時しか無人島を後にし, 日本に戻る日を夢見て, 何年掛かるか分からない無人島での共同生活を出来るだけ楽しく送ろうと努力して行くのである.

繰返しになるが, この無人島での共同生活を楽しく暮して行くために船長が作った約束事が極めて示唆に富んでいる.

1 つ : 島で手に入るもので暮して行く
2 つ : 出来ない相談を言わない事
3 つ : 規律正しい生活をする事
4 つ : 愉快な生活を心掛ける事

各人に役割分担 (Mission) を割り振ったり, 規律ある生活を心掛けるなど, 今回, ウルスアさんの執った行動に共通するところが幾つかあるのは極めて興味ある事実である.

また, アマンダ・リプリ著 (岡 真知子訳) 『生き残る判断 生き残れない行動』 (光文社) と言う本も参考になる. 

この本はテロや災害を生き延びた人々の証言集であり, 危機に遭遇した人たちの声が生々しく記録されている.

災害時のみならず, 平常時においても, 日常を生きる為の重要な知恵や教訓と言ったものを示唆してくれている.

さらに想い出すのは, 今から 19 年ほど前の 1991 年 12 月 29 日 『トーヨコカップ・ジャパン・グァム・ヨットレース '92』 に参加した 『たか』 号が消息を絶ち, 翌年 1 月 25 日, 奇跡的に 1 人の生存者が救出された事件である.

その奇跡の生環者 佐野 三治氏が, 自身の壮絶な体験の総てを綴った本, 『たった一人の生環 - 「たか号」 漂流 27 日間の闘い』 (新潮社) を発表している.

「たか号」 の乗員だった 6 人が, 畳 2 枚の広さもないゴムボートの様なラフトで, 漂流を始めるが, 結局, 佐野さん一人だけが, 約 2 週間後の 25 日に英国船に救出されたのである.


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